地域と連携した学校教育の推進




 先生方、こんにちは。ただいまご紹介いただきました中川です。よろしくお願いします。
 始めに少し自己紹介をします。私は昭和42年3月、小学校1級免許状をいただきましたが、欠陥教員でした。音楽が苦手で先生になったらどうしようと不安を抱えながら教員になりました。
 新採用の時、学年主任の先生から、「中川さん、どう見てもあなたが音楽を教えるより私が音楽を教えた方が子どもたちは音楽がよく分かると思う。逆に私が体育の授業をするよりあなたが体育の授業をした方が子どもたちはより体育を好きになると思う。どうですか。音楽と体育を交換して教えませんか。」と提案がありました。私としては渡りに船です。二つ返事で「お願いします」と言いました。これが私の教員生活のスタートです。
 私は昭和48年から4年間、牛深小学校に勤務しました。子どもが欠席すると、帰りに必ず子どもの家に寄っていました。寝ている子どもの枕元で、学校での1日の様子を話したり、子どもの体調がよいときは、その日に学習した国語や算数を教えていました。あるとき、欠席した子の家に寄ると、父親が、大きな鯛を料理していました。「わしぁ、これを肴に一杯飲もうて思うとったが、先生、鯛は食べるな? よかったら持って行かんな。」と大きな鯛を刺身と煮付けようにさばいて持たせてくださったことがあります。また、ある年の運動会の時のことです。朝から雨がどしゃぶりで運動会はできそうにありません。当時の天気予報は今のように地域ごとの予報はありませんでした。運動会をするか延期にするか体育担当の私たちが迷っていると、校長先生が「あそこの漁師に聞いてきなっせ。漁師さんが雨は降り続くというなら中止にしよう。後では上がると言うなら時間を遅らせて運動会をしよう。」とおっしゃいます。聞きに行きますと、「あの島に雲がかかっていないので雨は上がる」と言われます。見事に当たりました。それで運動会を1時間ほど遅らせてしたことがありました。漁師さんたちは周りの雲の様子、風の動きで天気を予測し、漁をしています。私にとっては、このときが地域と連携した教育の初めでした。
 また、私は家庭科の裁縫や調理指導がとても苦手でした。苦手と言うよりできません。それで、保護者に応援を頼みました。何人ものお母さんたちが家庭科の授業の手伝いに来てくれました。目玉焼きをつくる学習でしたが、目玉焼きだけではおいしくないとハムを持ってきてハムエッグを料理したり、中には炒り卵をつくったりで子どもたちは楽しそうに家庭科の学習をしていました。あるときは、性教育で、「赤ちゃん誕生」の学習をしました。赤ちゃん誕生の学習では、読み物をただ読む学習ではなく、誰かの話を聞いた方が子どもたちはより感動するだろう、私も2人の子どもの父親、私が息子たちの誕生の感動を話してもいいが、学級の子どもの母親に話してもらう方がより感動するだろうと、学級委員をしていたお母さんに頼みました。この方は、とても明るくひょうきんで、おかしなことを言っては学級の子どもたちを笑わせていた方です。はじめの方はおもしろく話をしていましたが、我が子の誕生のところになったら、涙をぼろぼろ流しながら赤ちゃん誕生のときの感動を話されました。聞いていた子どもたちはびっくりしました。あのひょうきんなおばさんが涙を流しながら話すなんてと。そして、授業後の感想文には、「清美ちゃん(話をしてくれたお母さんの子)は、あんなにお母さんからもお父さんからも喜ばれて生まれてきたんだ。清美ちゃんと同じように私も僕も家族から喜ばれて生まれてきた。この命大事にするぞ」という内容が綴られていました。また、学級活動で百人一首をしていました。「読み方は、先生より○○ちゃんのおばあさんが上手。○○ちゃんのおばあさんに読んでもらったらどうですか。」と一人の子から提案があり、そのおばあさんに読みで百人一首をしたことがありました。嘉島では、菊作りが盛んでした。地域の方の協力で大輪の菊を作りました。夏休みには、校内キャンプをしていました。子どもたちは教室で寝泊まりします。夜は、お父さんたちの協力を得て運動場でキャンプファイアーをしました。ファイアー後は、大人の楽しみが待っています。嘉島町には鮎の養殖場があります。そこから鮎を買ってきて、ファイアーの残り火で鮎を焼いて酒盛りです。今はこんな事はできませんが、保護者と私のふれ合い、また保護者同士のふれ合いの場でした。
 卒業を前にした子どもたちが、「先生、私たちは地域の人たちからいろんな事を教えてもらいました。私たちが料理をつくってお別れパーティーをしたいです。」と提案しました。感謝の集いを開きました。こんな事をしていたものですから、当時の校長先生から「中川さん、あたは地域の人と協働して学習することが好きのようだ。そんなことをする仕事に社会教育主事という仕事がある。講習を受けてみらんな?」と社会教育主事講習受講を勧められました。それで、社会教育主事講習を受講し、社会教育主事の仕事を9年間しました。
 20年ほど前までは受講希望者がかなりいましたが、今では受講希望者が大変少ないと聞いています。以前は、県教育庁社会教育課や教育事務所の社会教育主事や、市町村の社会教育行政活性化のために県から派遣する社会教育主事、青少年教育施設の専門職員など社会教育主事有資格者の活躍の場があったのですが、今では、派遣社会教育主事制度を熊本県では採っていません。青少年施設も指定管理者制度ができて民間に委託され、先生方を専門職員として採用することはありません。せっかく社会教育主事の資格を取っても活躍する場がないということからでしょうか。受講希望者が「0」に近くなっています。
 校長先生方にお願いです。「社会教育主事講習で学んだノウハウを活かして、コミュニティ・スクール推進の仕事ばせんな。主事講習を受講してみらんね?」と先生方に勧めて欲しいのです。私はこれからのコミュニティ・スクールの推進や学校応援団のコーディネーターにもっとも適した人は、社会教育主事有資格者であると思います。どうぞよろしくお願いします。
 退職後は、益城町の社会教育指導員として公民館講座等社会教育行政に関わってきました。平成17年、そろばん講座を開設しました。講座開設当時は、高齢者のぼけ防止と孫や近所の子どもに自治公民館などでそろばんの良さを教えるボランティアを養成することがその目的でした。平成20年、放課後子ども教室や学校支援地域本部事業が導入されましたので、講座生の人と一緒に益城町内4校で放課後子ども教室を開設し、そろばんを教えています。また、3年生・4年生の算数のそろばん学習の手伝いに行っています。2学期早々、益城町立広安小学校4年生のそろばん学習の手伝いに9名が出かけます。先生が基本的なことを指導された後で、練習問題に取り組むところからが私たちボランティアの活出番です。子ども4人程度に1人のボランティアがついて、指づかいや計算の仕方を教えるのです。先生からも子ども達からも大変好評です。
 この他、書道や絵手紙、陶芸などの講座生が、学校応援団員として学校を支援しています。先生にも子どもにも、そして地域の方にも意義ある学校応援団活動が今後さらに活発になることを願っています。
 ところで、文部科学省はコミュニティ・スクールを推進しています。山口県が最も指定校が多いようです。熊本県は、文部科学省指定の前段階としても熊本版コミュニティ・スクールを拡げています。文部科学省のコミュニティ・スクールと熊本版コミュニティスクールの法的根拠や違いは先ほど指導主事の先生から詳しくご説明がありました。私は意義や経緯、そして具体的な取り組み事例等を中心に話をしたいと思います。
 コミュニティ・スクールの意義を私なりに考えてみました。
 1つは、学校と家庭、地域の連携が深まり、子どもの活動の場が拡がり、地域の活性化や地域教育育力の向上につながることです。
 2つは、保護者や地域住民が学校運営に参画していくことで、学校・家庭・地域の連携が図られることです。文部科学省のコミュニティ・スクールは、校長先生の学校運営方針などについて学校運営協議会の承認を求めています。熊本版は、学校運営方針の共有が求められています。学校運営方針に基づいて子ども達の育ちを学校・家庭・地域が一体となって支援していくのです。
 3つは、保護者や地域住民の学校に対する思いが分かることです。そして、地域の自然、文化、施設、遺産などを教材として活かすことができ、子どもにとって豊かな育ちの機会が増えることです。先日、御船町の七滝中央小学校で道徳の研究授業を参観しました。熊本の心の副読本を活用した4年生の授業です。教材は、清和文楽を地域の宝物として守り育てている人々の取組を学習するものです。清和の人々の取組を学習した後で、「私たちの校区にも宝物として守り引き継いでいくものがあるでしょうか。」の問に、子どもたちが次から次に手を挙げて、「古閑の迫の虎舞」、「田代の獅子舞」、「八瀬の石橋」、「鼎春園(ていしゅんえん)」「七滝の自然」などと発表します。子どもたちの発表が出尽くした後で、古閑の迫虎舞保存会の会長さんが、虎舞の由来とか保存するうえで心していること、学習して欲しいことなどを話されました。まさに子どもたちの豊かな育ちの機会でした。
 4つは、子どもを中心に据えた学校と地域の連携は子どもの育ちにとどまらず、大人の学びの場を創り出し、地域の絆を深めることができることです。子どもの学習を支援する中で、大人もどうしたら効果的な声かけができるかなどを学習します。地域でも人と人とのつながりが深まります。益城町の公民館講座では、講座生同士がどう教えたら子どもが理解できるかを互いの実践を交換しあっています。
 5つは、子どもを地域全体で育てることが、地域づくりの担い手を育てることにつながり、地域が再生していくことです。天草にはほとんどの学校区に地域振興協議会があります。振興協議会と学校支援がリンクしています。これが地域再生につながります。そして、先生方や地域の皆さんの意識改革につながります。
 6つは、学校と地域が諸行事での交流を通して、子どもの目が地域へ向き、地域でいろいろな実体験をすることで、地域に対する愛着が生まれることです。宇城市のある小学校は、町の初市の日を登校日として店を出しています。このことは後ほど触れます。
 これらコミュニティ・スクールの意義について、平成16年3月、中央教育審議会は「今後の学校の管理運営の在り方について」の答申の中で次のように述べています。


 各学校の運営に保護者や地域住民が参画することを通じて、学校の教育方針の決定や教育活動の実践に、地域のニーズを的確かつ機動的に反映させるとともに、地域ならではの創意や工夫を生かした特色ある学校づくりが進むことが期待される。
 学校においては、保護者や地域住民に対する説明責任の意識が高まり、また、保護者や地域住民においては、学校教育の成果について自分たち一人一人も責任を負っているという自覚と意識が高まるなどの効果も期待される。さらには、相互のコミュニケーションの活発化を通じた学校と地域との連携・協力の促進により、学校を核とした新しい地域社会づくりが広がっていくことも期待される。

ところで、ここ数年で急に叫ばれ出したように思えますコミュニティ・スクールの推進は、ここ数年のことではないのです。その経緯を見てみます。
 昭和40年、国連のユネスコの会議においてフランスのポール・ラングランが「生涯教育」を提唱したことは先生方ご存じの通りです。ラングランが提唱した生涯教育をフランスでは、継続という言葉を附けて紹介しました。イギリスなどでは、「life-long integrated education」とされ、日本にも「生涯教育」と訳し、紹介されました。ところがこの「integrated」が抜け落ちて、「life-long education」
となりました。「integrated」とは、統合とか連携いう意味です。この統合には、縦の統合と横の統合があります。縦の統合は、就学前教育とか小学校教育、中学校教育などの見方から生涯を通して見つめていこうとの考えです。横の統合とは、生活の場を家庭とか学校、職場、地域などの区割り的な見方から生活空間全体としてみていこうとの考えです。この生涯学習の考えが学校間連携とか学校と地域の連携の考えの根底に横たわっていると私は思っています。
 答申等を見てみます。
 昭和59年〜62年、臨時教育審議会が4次に亘って答申を出しました。教育に関する審議会は、中央教育審議会とか社会教育審議会でしたが、臨時教育審議会は中曽根元総理大臣の諮問機関です。当時、諸々の教育課題が社会問題となっていました。特に、大学志向が強く、採用試験でも「何ができるか」ではなく「どこの大学を卒業したか」を重要視することがありました。このような学歴偏重社会の弊害を是正するために生涯教育の考えを打ち出しました。そして、教育改革の視点として、「個性重視の原則」、「生涯学習体型への移行」、「変化への対応」の3つを挙げました。このなかで、「開かれた学校づくり」を提唱しています。
 時間の関係で途中はとばします。後刻目を通していただきたいと思います。
 平成8年6月、中央教育審議会第一次答申「21世紀を展望した我が国の教育の在り方について」の中で、「地域の様々な機関・団体や学校等で組織する地域教育連絡協議会を設けること」を提唱しました。さらに「家庭や地域とともに子どもたちを育てていく視点に立った開かれた学校」を提唱しました。
 平成10年9月には、中央教育審議会が「今後の地方教育行政の在り方について」の答申の中で、「開かれた学校づくりを推進するため、保護者や地域住民の協力を得ての学校運営」を提唱しました。そして、「学校評議員を設けることができる法令上の位置付けを検討すること」を提唱しています。
 平成12年に、学校評議員制度が導入されました。
 平成13年1月、文部科学省は、「21世紀教育新生プラン 学校、家庭、地域の新生〜学校が良くなる、教育が変わる〜」を発表しました。その中に、「新しいタイプの学校“コミュニティ・スクール”等の設置を促進する。14年度予算で実施する」と明言しました。
 平成16年3月、中央教育審議会が「今後の学校の管理運営の在り方について」の答申の中で、地域が公立学校の運営に参画することの意義や制度化に当たっての基本的な考え方について示したことは、先ほどお話ししたとおりです。
 そして、平成16年3月、地方教育行政の組織及び運営に関する法律が改正されました。その第47条の5には、
    教育委員会は、教育委員会規則で定めるところにより、その所管に属する学校のうちその指定する学校(以下この条において「指定学校」という。)の運営に関して協議する機関として、当該指定学校ごとに、学校運営協議会を置くことができる。
と条文化してあります。
 学校運営協議会を置くことができる根拠は、この条文です。
 そして、平成16年に、コミュニティ・スクール(学校運営協議会制度)が導入されました。
 平成18年には、教育基本法が改正されました。その第13条(学校、家庭及び地域住民等の相互の連携協力)には、
   学校、家庭及び地域住民その他の関係者は、教育におけるそれぞれの役割と責任を自覚するとともに、相互の連携及び協力に努めるものとする。
 と明記されました。
 平成23年には、学校運営の改善の在り方等に関する調査研究協力者会議が、「子どもの豊かな学びを創造し、地域の絆をつなぐ〜地域とともにある学校づくりの推進方策〜」を提言しました。
地域とともにある学校づくりの新たな視点として、「大人の学びの場となる学校」、「地域づくりの核となる学校」を示しました。
 この間、社会教育の分野では、放課後子ども教室でありますとか学校支援地域本部事業などが創設され、現在に至っています。
 学校運営の改善の在り方等に関する調査研究協力者会議が提唱しました「大人の学びの場となる学校」づくりの視点から1つ提案します。学校では、人権とか環境、福祉分野の学習をします。これらを授業参観ではなく小学校版あるいは中学校版公開講座として、保護者や地域の人に開放したらどうでしょう。ただ学習を見るだけではなく地域の大人も学習に参加するのです。ですから、疑問に思ったことは質問することができます。思ったことを発表することもできます。大人にも学びの場となります。子どもたちにとっては地域の人と一緒に学習することで刺激になります。どうか学校でご検討ください。
 次に、コミュニティ・スクールや学校支援地域本部事業等の具体的事例を紹介します。
 まずは、学校運営協議会等の事例です。
 組織構成メンバーは、学校関係、行政関係、学識経験者、保護者代表、地域代表、関係機関代表、社会教育関係代表等で組織されています。校長先生が会員となるか事務局員となるかは学校の事情で違うようですが校長先生は会員として名を連ねていらっしゃるようです。地域代表も嘱託員さんや民生児童委員さん等が会員となっているようです。構成メンバーはほぼ似通っていますが、組織名称は、いろいろあります。一番多いのが「○○小(中)学校運営協議会」です。中には「○○小と地域の絆を結ぶ会」がありました。ネーミングがすばらしいですね。天草のある学校で、この会の通知文を見せていただきました。第60数回とありました。1年間で数回開くとしても10年以上も前から地域との連携が行われています。当時の校長先生の先見の明には敬服いたします。と同時にこの会をずっと続けてこられた歴代校長先生方のお考えもすばらしいと思います。「○○地区連絡協議会」は、熊日新聞でも紹介されましたが、宇城市のある学校の組織です。毎月、月初めに1時間程度行われるそうです。それぞれの団体が自分たちの団体の行事や学校応援活動を紹介し合うそうです。ですから、学校応援活動ばかりでなく、地域の動きもよく分かるそうです。天草には、「○○校区地域振興会」がほとんどの校区にあります。校長先生もその会員として会合に参加され、学校支援を呼びかけておられます。中には、この下部組織に「学校支援部会」ができているところもあります。
 私は平成9年、上益城郡御船町七滝小学校に新任校長として赴任しました。その年、教育懇談会と称して、区長、民生委員、社会教育委員、公民館長、婦人会長、体協会長さんたちと教育について話し合う会を持ちました。そのとき、ある区長さんが、「近頃子ども達は全然挨拶ばしません。学校ではどんな指導をしているのですか?」とお尋ねがありました。それに対してすかさずある区長さんが、「あたは何ば言いよっとな。今日はそぎゃんした問題ばみんなで話し合おうとわし達ば校長先生が呼びなはったつばい。どぎゃんしたら子ども達が挨拶するようになるかば皆で話し合おうじゃなかな。」とおっしゃいました。地域の共通課題として挨拶運動について話し合ったことがあります。
 規則等は、ひな形に沿って、趣旨や設置基準、構成委員等を明記したものがつくられているようです。
 協議内容は、学校運営や具体的な学校支援方策に関する意見交換、承認、共有、各団体の事業等の周知が中心となっているようです。これらが学校と地域、家庭との架け橋となります。協議会委員が学校運営方針や学校の課題や情報を共有して、課題解決に向けた取組を教育の場でどう行うかが具体的な学校支援です。
 学校の課題解決のための具体的支援の事例を紹介します。
 小学校では、大きく3つに分けられます。
 1つは、学習支援です。国語や算数などの教科指導を支援するものです。採点支援、傾聴支援、講話支援、ミシン操作などの技術支援、読み聞かせなどがあります。
 2つは体験交流支援です。農業体験や昔遊び体験、福祉施設での交流体験、地域の高齢者との交流体験などです。
 3つは、郷土愛支援です。郷土学習です。先ほど上益城のある学校の道徳の授業を紹介しました。郷土を知り、自分が生まれ育った地域を誇りに思う活動がこれからは特に重要であると思います。上天草市のある学校では、「ふるさと教育」と題して「ふるさとを知り、ふるさとを愛し、ふるさとに貢献する子ども」を育てるとの研究構想を校長先生が市教育委員会に提案され、市教育委員会から研究指定を受けて郷土愛を育む研究が行われています。これは、上天草市版コミュニティ・スクールと言っても良かろうと思います。今、このように○○町版コミュニティ・スク−ルが出てきています。ここ天草では、たくさんの校長先生方が、○○小(中)学校版コミュニティ・スクール構想を持っておられます。
 中学校では、キャリア教育支援、福祉体験支援、郷土愛支援の3つに分けられるようです。キャリア教育支援の中でも職場体験学習の受け入れ事業所を選定するには、学校と地域の信頼関係がなければできません。大規模校では、100カ所以上の事業所に受け入れを依頼すると言っておられます。日頃からの地域との信頼がなければできないことです。宇城地区のある中学校では、1学期に受け入れ事業主の職業講話を全校生徒が聞き、それも選択制で生徒自らがどんな職業の方のお話を聞くかを決めるのだそうです。そして、2学期の職場体験に繋げています。天草では、3年生で福祉体験をしているところが多いようです。
 千葉県習志野市に秋津小学校という学校があります。ここは、新興住宅地で地縁、血縁があまりなく、子どもを通したつながり、つまり子縁によるコミュニティ・スクールを推進しています。ここのコーディネーターの方がいろんなアイデアをお持ちで全国に先駆けてコミュニティ・スク−ルを実践しています。教育課程も柔軟に考えて、「人間だいすきふれあい科」を創設して年間35時間充てているそうです。いろいろな人と触れあう体験活動を通して、人間理解を深め、自己を肯定し、たくましく生きる力を育んでいくものだそうです。また、秋津小学校を拠点に行われる地域の秋祭りを、子どもたちが地域の多くの人と触れあい共に学ぶ場として登校日にして、全校児童が参加しているそうです。宇城市の小学校が町の初市に参加する例と似通っています。
 このように地域と協働した学校教育がいろいろな形で取り組まれています。これらの取組での先生方、子どもたち、ボランティアの声をいくつか紹介します。
 先ず、先生方の声です。天草のある校長先生は、「うちの校区には人材が豊富です。」とおっしゃいます。「地域振興会に出席して地域の方と話をしたり、朝のあいさつ運動で地域の方と触れあったりしていると地域にはいろいろな知識や技能をお持ちの方がたくさんいらっしゃいます。そのような方々にお手伝いをいただいています。」とおっしゃいました。校長先生が常に地域の方と協働した教育活動を展開したいとの思いをお持ちだからこそ見えてくるものだと思います。
 これも天草の校長先生のお話です。「『先生方が、1時間の授業をするために教え方を研究し、一人一人の子どもにあった指導をしていらっしゃるからこそ子どもたちがよく分かるのですね。先生方のお仕事ぶりに頭が下がります。』と地域の人から私たち教師の仕事を認めていただき、教師であって良かった」と私の学校の職員は言います。そして、地域と連携した教育活動を積極的に行っていますと。
 「地域ボランティアの支援で一人一人にきめ細かな指導ができます。」これは、益城町で行っているそろばん学習や毛筆習字を地域の人と協働して指導している先生の言葉です。益城町では、例えば、先生が文字の書き方を一斉指導した後で、7〜8人のボランティアが子どもたちに筆の運びや、止め、はね、はらいなどを手を取って教えています。
 子どもの声、これも益城町の子ども声です。
 ・「字が上手だね。読みやすいなー。」と言ってくれてうれしかった。
 ・1問間違えた時、「あとちょっとだね。」と言ってくれてうれしかった。   
 ・「がんばったね。」と言ってくれてうれしかった。
 ・「もちょっと丁寧に書くと、読みやすいよ」と言ってくれてうれしくなり、やる気が出てきた。
 ・「おはよう、行ってらっしゃい」とか「お帰り、学校楽しかった?」と聞いてくれたりしてと  てもうれしいです。
 ・(ボランティアは)お仕事ではないのに自分から進んでやるなんて本当にすごいし、かっこい  いと思います。今度から僕も進んでゴミを拾ったりしたいと思います。大人になったらボラン  ティアをしたいです。 
 子どもたちは、地域の人から見守られ、認められ、褒められていることを実感しています。この地域の人から包み込まれていることを実感することが、21世紀に生きる子どもたちにとって最も大切な自尊感情を育むことにつながります。また、「今度から僕も進んでゴミを拾ったりしたいと思います。大人になったらボランティアをしたい」の言葉から学校支援ボランティアを自分のモデルととらえていることがうかがえます。
 ボランティアの声です。
 ・この歳になって社会の役に立っていることを実感できて嬉しく思います。
 ・これまで何となく眺めていた回りの景色が違って見えます。
 ・こどもの学びのお手伝いをすることが生きがいです。
 資料として附けています熊日新聞への松村さんの投稿文、澤田さんの手記を後でお読みいただければ、ボランティアの気持ちがお分かりいただけると思います。澤田さんは、「子どもたちとのふれ合いは私の宝物です」と綴っています。
 コミュニティ・スクールや学校支援地域本部など地域と協働した教育活動の効果を見てみます。 3年前の東日本大震災では、東北地方の多くの学校が一時避難所となりました。このとき、避難生活をしている人による自治組織がいち早くできたのが学校支援本部事業を展開している学校だったと言います。そのはずです。地域の人がよく学校に来ているので学校の施設設備についての知識があります。先生方とも顔見知りです。何よりも地域の人々同士が顔見知りが多くてすぐに話がまとまったそうです。これは思わぬ効果です。その他、いろんな効果が挙げられます。大阪大学教授志水宏吉先生は、学校・家庭・地域が連携して教育活動を展開することで、確かな生きる力を身につけた子どもを育むことができる、また、それぞれのつながり感を育むことができると説いていらっしゃいます。先生はこのことを「スクールバスモデル理論」と名付けて説明していらっしゃいます。その「スクールバスモデル理論」を紹介します。この考えについては、指導主事の先生からも以前話があったと聞いていますが話をお聞きになった先生はもう一度温めるつもりでお聞きいただきたいと思います。図に示してありますように、スクールバスモデル理論のキーワードはつながり感です。バスの4輪がうまくかみ合うことによってバスは動き始める。子どもたちも4つの力がうまくかみ合って初めて確かな学力を身につける。4つの力とは、右前輪に当たるところが全ての子どもたちの学びを支える先生方の学習指導、左前輪が豊かなつながりを生み出す生徒指導、右後輪が家庭の教育力の向上、家庭同士のつながり、そして学校に対する支援・協力、左後輪が地域の教育力の活性化、地域の学校に対する支援・協力、そして関係機関同士のつながりです。エンジンに当たるところが気持ちのそろった教職員集団、先生方の共通理解です。ハンドルやアクセルに当たるところが校長・教頭先生方の学校運営、つまり判断力・指導力です。そしてバスの内外の壁面が教育環境です。学校・家庭・地域が有機的につながりあってはじめて確かな生きる力を身につけた子どもを育てることができることがよく分かります。
 昨年、県庁地下大会議室で行われました熊本版コミュニティ・スクールシンポジウムで、文部科学省の出口企画官は、「コミュニティ・スク−ルと学校支援地域本部は車の両輪です。」とおっしゃいました。今や、次代を担う子育ては学校だけで担う時代ではありません。地域と協働した教育によって生きる力を身につけた子どもを育てる時代です。
 学校だけが開かれるのではなく地域も開かれた状態、双方向に開かれた教育活動の展開が必要だと長先生方は言っておられます。この学校を核とした地域と共に子育てに当たる取組は新たなコミュニティ作りにつながります。どこの学校でも何らかの形で地域と協働した教育活動を展開していらっしゃいます。今は点としての取組をしている学校は、点と点をつないで線へ、線ができている学校は面へとつなげて地域と共に子育てに取り組まれますことを祈念します。
 今後の課題として3つ挙げます。
 1つは、学校の先生方と地域住民の共通理解をいかに図っていくかです。
 2つは、中学校における具体的な支援の場や方法の開発です。
 3つは、学校応援団の固定化・高齢化・減少化に対応した新たなボランティアの発掘・養成です。
 1つ目の課題、先生方や地域住民の理解を深めることは、不十分な理解や押しつけでは決して長続きしません。この取組がこれからずっと続いていきますようにいろんな機会を捉えてコミュニティ・スク−ルの必要性やよさの啓発をお願いします。
 2つ目の課題、中学校における支援の場や方法を開発していただきたいと思います。そして、天草管内だけでなく全県下に紹介していただきたいと思います。
 3つ目の課題は、校長先生方より行政の方へお願いです。ボランティアの高齢化が進んでいます。天草のある学校では、統合前の学校時代から読み聞かせボランティアをしていた方が路線バスを利用して統合後の学校まで来ている方がいらっしゃると聞いています。しかも高齢の方です。このような方もいらっしゃいますが、「もうそろそろ引退したいと思います。」とおっしゃる方が少しずつ増えています。また、ボランティアの輪が広がらないところがあります。公民館講座などでボランティア養成を是非お願いします。お帰りになりましたら、生涯学習課の方にお伝えいただきたいと思います。
 私の思いを一方的に述べましたが、天草地区でコミュニティ・スク−ルの実践校がさらに拡がりますことを祈念して話を終わります。ご静聴ありがとうございました。


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